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大学院・学部合同FD講演会(メンタルヘルス)

 平成21年12月11日に、京都教育大学より保健管理センター所長 中村道彦教授を講師としてお招きし、 講演会「現代学生のメンタルヘルス − 摂食障害、ひきこもりを中心に − 」が実施されました。この講演会は、平成20年度「新たな社会的ニーズに対応した学生支援プログラム(学生支援GP)」として採択された本学の「不登校傾向の学生へのアウトリーチ型支援」によるものですが、全学的なFDとしても位置づけられ、メンタルヘルス専門委員会、高等教育開発センターの共催として開催したものです。

 講演会は、旦野原キャンパス教養教育棟32号教室、 挾間キャンパス211号教室(遠隔授業システムによる配信)を会場として、学生支援課、河野美奈課長の司会進行のもと、15時より始まりました。

 開会にあたり、副学長大嶋教育担当理事により、本日の講演では大学の現状を加味した展望がお聞きできると期待していますとの挨拶がありました。引き続いて本学保健管理センター藤田教授より、講師の中村先生の略歴紹介がありました。

 講演の概要は以下のとおりです。
●本日の講演では、青年期の障害として、女性では摂食障害、男性ではひきこもりを取り上げること。

・現代の学生像の特色として低い自己評価を起点とした、対人緊張を避けるための4パタンとその解説。
 1)自己を隠すために好青年を演じる。
 2)責任の回避行動。
 3)体調不良のせいにする身体化。
 4)周りの人をランク付けする自己愛的行動。

・現代の学生の低い自己評価は、戦後の社会構造の変化により、個人主義と利己主義の勘違いが結果として個々人主義になったことが原因である。その一方で近代的育児による成長の遅延があることも関与している。

<摂食障害>
 摂食障害(拒食症)に見られる代償行為は、食べ物をため込む・作る。また、拒食症による死亡率は5%(一説には15%)。
 摂食障害の判定には、BMI(ボディ・マス・インデックス)が指標となり、20から24が標準である。10年ごとの傾向では男性では上昇、女性では下降が認められる。
 ダイエット(拒食による食事制限)は段階によって症状が異なり、強い空腹感のある第Ⅰ期を過ぎると、空腹感が欠如し過活動となる第2期、さらに多臓器不全と無力感・減行動となる第3期へと移行し、空腹であっても活動が活発になるがこれは非常に危険な状態である。
 神経性無食欲症(拒食症)と神経性大食症(過食とその排泄のための便秘薬の濫用)の両者は対照的なのではなく、摂食スペクトル障害として連続していると考えられる。
 拒食症の原因として、母子関係の分離がうまくいっていないことが考えられる。京都教育大学では母子の分離による治療を実践している。
 Toronto大学では、オンタリオ州の約200件のEAT(Eating Attitude Test)に関するデータを持っているが、それによると、境界性人格障害の人がかかりやすいようである。

<ひきこもり>
・DMSによる引き子もりの定義(100万人という数字は必ずしも実態を表していない)。
・引きこもりが進行する親子のパターン

 1)第一の悪循環:どうしていいかわからない、見守ってしまう、立ち直れない、さらにどうしていいかわからない。
 2)第二の悪循環:子どもはお前のせい、親は自分のせいと思い、親は子どもの奴隷的に振る舞ってしまう。
 3)第三の悪循環:親の物わかりが良すぎて、子どもに何もできなくなる。当たらず、触らず。
           <家族全体が引きこもりとなる最悪の状態>

 概要は以上です。摂食障害、ひきこもりいずれも、本人と家族との関係、その対応を念頭に置いて治療することが重要であるとの講演でした。

 

 

 

 講演後の質疑応答は以下のとおりです。

Q:摂食障害の予兆としてとらえられるものは何かありませんか。
A:女性の場合、体重が40キロを切ると危険である。食べなくても平気との発言は要注意。

Q:引きこもりへの対応について
A:訪問がまず、最初である。京都市ではサポート制度を確立している。引きこもり経験者を訪問させる。
 まず、関係者への訪問を始める。いずれ本人が出てくる。本人は引きこもりの状態を良しとはしていないので、気にしている。指導教員が根気よく学生宅を訪問して卒業にこぎ着けた事例がある。

Q:子供の回復がうまくいくようにとの親の姿勢があるが、どのような関係を作ればいいのか、また、その時期は。そっとしておいていい時期と関わらなければならない時期の見極めとは。
A:付属中が治療の対象を高等学校へも広げている。その事例として、最初はそっとしておく。親がいらだつのでまず、親へのカウンセリングから始まる。親には我慢してもらう。その後、子どもが動くようになるので、その気を逃さず(チャンス)アドバイスをする。予兆の把握は難しい。

最後に本学の保健管理センター長である寺尾先生から、素人にも非常にわかりやすいお話でした。「今回の講演のキーワードは『家族』であると感じました」との謝辞がありました。

  16時30分に終了しました。多数の方にご参加いただきありがとうございました。

 

 

 

[参考]案内(PDF)

(文責)牧野 治敏
(編集)尾澤 重知

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